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酒の甘辛論

1999年11月


私達が酒を口にするときに、この酒は甘口(あまくち)だとか、この酒は辛口だとかを話題にすることがある。

「通の人は辛口しか飲まない」といった辛口礼賛の声を大きくして、俺こそ酒の通である、という様なしたり顔をする人も見かけます。それは本当でしょうか。

それ以上に、日本酒の甘口辛口の問題を、酒の品質や旨さの優劣とイコールであると勘違いをしている人もいて、一時期は辛口でない酒はだめだと思っている人もいたようです。私どもから見ると、ちょっと混乱しているように思えます。

試飲会などをしてみると良く分かるのですが、酒の甘辛の感じ方は人によってかなり違います。同じ酒なのに、これは辛口ですね、という人がいるかと思えば、ちょっと甘口だという人もいます。人によって感じ方が違うこともあるでしょうが、多分、味を言葉で表現するときに、良い言葉が見つからなくて「辛い」と表現してしまうせいではないでしょうか。

たとえば、酸に敏感な人は、酸度が高いと辛口だと表現する人が多い傾向があるように感じられます。また、アルコール分に敏感な人は、アルコール分が高いと辛口だと表現するようです。

また、単に言葉のイメージだけで「甘い」という言葉を、「砂糖を入れたような」「ベタベタした」と考えている人も結構いるようです。そういう人にとっては、たいていの酒は「辛口」の酒になってしまいます。

この様に見ていくと、「辛口」の酒の範囲は非常に広くなり、結果として世の中に出回っている酒のほとんどが「辛口の酒」ということになります。少し前までの「辛口」ブームにより、確かに辛口の酒は非常に多くなりましたが、何を呑んでも「辛口」と表現する人を大量に作ったような気がします。

あまり辛口を追求すると酒の旨みがなくなってしまうため、極端な言い方ですが、旨みの無い辛口の酒を呑むのであれば、いっそのことくせの無い焼酎を呑んだほうがまだましなのではないでしょうか。

やはり日本酒には旨みが必要です。口に含んだときに口中にふわっと広がるほのかな甘味、これが「旨味」です。例えば、品評会用の大吟醸はかなり辛口の酒ですが、審査の際には、やはり口に含んだときの旨味がなければ上位入賞はできません。

この旨味は酒の中の糖分の味ではなく「アミノ酸」の味です。調味料のグルタミン酸などと同じものです。欧米人にの味覚には「旨時」が無く、日本人の味覚には「旨味」がある、という話しを良く耳にします。日本人であれば、出汁の旨味を嫌いな人はいないでしょう。これこそが日本人に日本酒が好まれる第一の要因ではないかと思っています。

この様に、酒の甘辛を決めるというのは非常に難しい問題です。どのように表現しても酒の味が変わるわけでは無いわけですから、単に「甘辛」だけでなく、もっと自由に酒の味を表現したほうが面白いのではないでしょうか。なにも「白樺の葉からこぼれる朝露のようにすっきりとした味」といった気取った表現は必要無いでしょう。「口に含んだときに甘味が広がる」とか「呑んだ後口の中がさっぱりしている」といったように。

一度酒席で表現の優劣を競ってみてはいかがでしょうか。

 

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