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酒の味

1999年12月


ここしばらく、酒の味の話が続いたが、もう少しお付き合いいただきたい。

先月の便りで書いたように、酒の味を表現する際に一番使われているのは「甘辛」である。そして、日本酒を好きになるほど、もっと色々な表現をしたくなってくるものであろう。

一般的な酒の味として良く言われているのは「甘酸辛苦渋(かんさんしんくじゅう)」の五味である。それに、先月御紹介した「旨み」も加えて、六味が入り混じった味を言葉で表現するのは非常に難しい。人それぞれによって、味の感じ方が違うからである。

また、一口に味といっても、口に含んだときの味、口の中で酒を転がした時の味、酒を飲み込んだ後に口の中に残る味、等々、色々な場面で微妙に味が変わってくる。これが酒の味の面白いところでもある。

難しいとばかり言っていてもいけないので、いくつか酒の味を表現するポイントを御紹介しよう。

口に含んだときの、口の中に広がる味。これが豊かなほど「巾がある酒」ということになる。あまり味が広がらない酒は、「巾がない」「細い」酒ということになる。

酒を飲み込んだ後、口の中に心地良い味が残る酒は「後味が良い」酒である。その余韻が長く続くようであれば「後味が豊か」な酒、逆に違和感が残るようであれば「後味に雑味が残る」いわゆる「後味の悪い酒」である。

ここで御紹介した口の中に広がる味、口に残る味に気をつけるだけで、酒の味の表現がずっと豊かになると思う。是非一度お試しいただきたい。ただし、これは私なりの表現なので、人によっては違う表現のし方もある。できれば皆さんそれぞれに表現のし方を研究していただきたい。

こうやって、日本酒の味を深く知るほど、もっと色々な表現をしたくなるが、ここに一つ落とし穴がある。上にも書いたように、酒の味をうまく表現するのは結構難しい。しかしもっと楽な方法がある。酒の欠点を指摘することである。ちょっと変な香りがする、雑味がある、ボケた味だ等々、欠点を口に出すと霧が無い。どんな酒でも百点満点の酒は無いであろう。欠点を指摘する、つまり減点法で酒を採点していくと、どんな酒でも悪い点数になってしまう。

仲間で飲んでいるときに、色々な酒を一口飲んでは、味が薄いとか、薄いとか、その酒の欠点をズバズバ指摘すると、「この人は酒の味が良く分かる」と感心される。確かに格好が良い。しかし、こうなると、どんな酒を呑んでもおいしくなく、満足できなくなってしまう。これは非常に不幸なことである。日本酒マニアと呼ばれる人達の中にたまにそういう人を見かける。

まずい、まずい、と言いながら呑むより、うまい、うまいと言って呑むほうが、同じ酒でも、ずっと味が違う。酒をおいしく呑むには、酒を誉めながら呑むのが一番ではないだろうか。

何も、悪い酒を良い酒だ、と言って呑んで欲しいといっているのではない。酒の味がわかるからこそ、さまざまな味を、呑んでいる酒の特徴と捕らえて楽しもうではありませんか。

御園竹は今年も「巾のある」「後味豊かな」酒であるよう、杜氏を始めとして、社員一同努力して仕込みを行っている。

 

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