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正月と酒

1999年1月


酒の旨い季節というと冬であろう。しかも季節的にも気温的にも、寒いこの冬の時期は何と言っても日本酒の季節である。

十二月から一月にかけては、忘年会とか、新年会とか、何かにつけて酒に親しむ機会が多い。この時期に楽しく酒に接すると、その年の一年間が楽しく平和になった気分になるものである。

日本人の正月は、大方の家庭で、朝方神様に酒を捧げることから始まるのではないだろうか。「御神酒(おみき)をあがらぬ神はない」という言葉通り、昔から神様とお酒は大変深い関係にあったものである。神様へのお供え物で一番重要なものは米飯であり、御神酒はそれにつぐものとされていた。

日本人は米作を主とした農業生活を生業の中心に置いていたため、神を祭るためにその年収穫した新穀で酒を醸し、祭りには米飯や餅と数々の野菜類や魚、果物と共に新酒を供え、一年の無事と豊かな収穫を感謝したものである。

そしてお供えしたもののお下がりを神々と共にいただくのである。それが直会(なおらい、なおらえ)という宴会である。神と人とが共に食事をして、神様の力の一部を自分にちょうだいするというのが直会の意義であり、目的である。

その祭りの一年の最初が年始祭である。多くの人が二年参りとして前夜から神社へ行き、朝、神棚へ御神酒を捧げて新年が始まるのである。

昔から日本人は酒は人が造るものでなく、神が造るものと考えており、醸造されたものは神秘なものと信じていたのである。それ故、酒造の神として、奈良の三輪の大神(おおかみ)神社、京都の松尾大社等に代表される多くの神社が酒の神として崇敬されて来たのである。

前にも書いたことがあるが、清酒の酒造店の店の前に吊されている杉の玉は「酒林」と呼ばれる。本来は大神神社のご神体である三輪山の神杉を使って球形にしたもので、新酒が出来上がったときに初めて吊されるものである。本来の意味は「奇し玉」(くすだま)であり、神の身代そのものであり、酒を醸すために神の加護を祈り、良い酒のできることを念ずるために祭られたものである。

酒造りは神聖な神の御業と信じられ、それを醸す酒造所も神聖でなければならないとする信仰が、新酒の出来たときに酒林を吊すことになったのである。

新年に祭られる代表的な神社の名前というと、先にも書いた三輪の大神神社、松尾大社(京都)の他にも達部大社(志賀)、梅宮神社(京都)、磯前神社(茨城)などが著名であり、多くの信仰を集めている。神々も大国主命、少名彦名命、大山祇命等が著名であるが、いずれも国土経営や産業開発や医薬の神々である。それらの国造りの中心の神々が酒の神として崇拝されていることは注目すべき事であろう。

日本人の一年の始まりが酒の神々と共に始まることは大変意義深いことと言えるであろう。

先に、酒林の事を「くすだま」というと書いたが、「くす」は「くし(新酒)」であり、「薬」であることは日本最古の書でもある日本書紀に詳しく物語られている。神の住む場所で酒が造られていくのである。

一年の始まりは、やはり日本酒と共にあらねばならないであろう。

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