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酒の味

1999年2月


 

当社では、今寒造りの最中である。外に雪がちらちらしているこの頃、耳が切れる様な寒い朝の日が続くと、酒造家の我々は、働いている人にはつらくて申し訳ないと思う反面、良い酒ができるな、と思わずうれしくなってしまう。

寒造りの季節、しぼりたての酒を冷やで、また燗酒で心身共に暖める。こんな二つの酒の楽しみがある。

しぼりたての酒と言えば、今年の元旦に各家庭へ届けるように企画した「カメ酒」の評価は如何であったろうか。正月にカメから酒を汲み、家族や親族が集まり、また親しい人達と酌み交わす。毎年この様な新年を迎えたいから、来年も是非造ってくれと言う声が耳に入ってきてうれしかった。遠方に出て居て正月に集まった家族が笑い顔であのカメから酒を酌み交わし、今年の無事を誓い合っている情景こそ、新年にふさわしい日本酒の味わい方であろう。

しぼりたての風味を楽しむには、やはり冷やが良い。今年は「しぼりたて生酒」の味を今までとはかなり変えてみた。冷やで呑んで「旨い!」といっていただける酒を、と考えて、甘みを持たせた。といっても、冷やで呑めばそれほど甘みを感じないだろう。トロリとした旨味を感じてもらえれば嬉しい。

カメの酒は「しぼりたて生酒」より更に甘い酒だった。家族みんなで話をしながら呑むことを考えた。普段お酒を呑まれている方だけでなく、家族の方、特にご婦人に評判が良かったという話を聞いて、非常に嬉しく思っている。

しぼりたての酒は、この季節ならではの酒であるが、やはり毎日呑むとなると、この季節には、燗酒を呑むのが旨いと思う。人間の舌は、一番味に対して敏感なのは十五度から三十度位までと言われている。その観点からすると、一番日本酒をおいしくいただけるのはぬる燗が良いのである。

日本酒は世界の酒の中では、おいしく飲める品温の高低差が一番広く、オンザロックから四十度〜四十五度のぬる燗、また五十度〜五十五度の熱燗まで幅広く、要するに自分の好みに合わせていただければ良い。

ただあまりの熱燗はアルコールの蒸発が高いため、鼻にツンと来たり、しばらく置いておくとアルコール分が飛んでしまい、気の抜けた味になってしまう。お燗の調子を見る時、人は無意識に徳利の底に手を当てて見ることがあるが、その時、熱からずぬるからず、人肌の温度が一番おいしい酒の呑み方と言えるのである。くれぐれもお燗のつけすぎは良くないのである。

「グルメ」という言葉が日本に定着して久しい。「グルメ時代」とか「グルメブーム」とか使われている。この「グルメ」とはフランス語の「グルマン」に起源を持つ。日本語でも「食通」とか「美食家」という言葉があるが、フランス人に言わせると、グルメとは「料理だけでなく、酒の良さも味わい分けられる洗練された味覚センスの持ち主」という事になる。日本の食通などはその点からもグルメの最たる物であろう。

グルメと自任する人は日本酒にとってもきき酒の大家であって欲しい。造り手もいろいろと考えて酒の味を決めている。呑み手もその味の違いをきき分け、理由を考えてみる。そんな酒の楽しみ方もあるのではないだろうか。

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