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酒造好適米

1995年7月


お米には数多くの品種があるが、その中で特に酒を造るのに適した米が、酒造好適米である。

酒を造るための米は非常に白く精米される。玄米の外側の粉糠(こぬか)の中にはタンパク質や脂肪、灰分、ビタミン類が非常に多く含まれている。栄養分があるように見えても、これらの成分が多すぎると酒の味を悪くする。それらをできるだけ少なくする様に精白するのである。そしてその様な高度な精白ができる品種が特に酒造好適米として食糧庁から指定されている。その内特に良い品種としてAランクに6県の7品種が指定されている。その中には長野県産の美山錦(みやまにしき)も含まれている。その点で信州は恵まれている。関西方面には有名な山田錦があるが、生産が減少しているようだ。長野県にはその他に高嶺錦(たかねにしき)も好適米に指定されている。

酒造好適米には、作りにくく虫害に弱い品種が多いため、国の減反政策の影響もあり、農家は積極的には作りたがらない。そため値段を高く買い上げて生産意欲を高めている。美山錦などの産地特性は、高地で水がきれいで、傾斜地のような所に向いている。昔から佐久の川西地方の米が酒造に良いと伝えられてきているのも、その産地特性にかなっているのだ。

酒米は昔は米は手つき臼や足踏み臼を使って精白していた。その後になって水車での精米へと移行した。米が一俵以上入る大きな石臼が沢山並び、杵でつかれる。杵は水車でまわされ、二晩くらいかかって精白された。玄米の外側の粉糠の精白は、毎日の食卓に上る白米では8%くらい(八分搗き)がせいぜいである。これを92%の精白という。清酒を作る米の精白は悪くても75%である。純米酒や本醸造酒は70%以下、吟醸酒で60%以下、大吟醸ともなると50%以下である。大吟醸は米の半分を粉糠にしてしまう大変贅沢な造りである。

こういう搗き方は、米屋さんや農協などで使っている精米機では手に負えない。米屋さんの精米機は横型精米機といって、米粒のお互いの摩擦力で米の外側の粉糠を削って行くのである。

昭和初期になって竪型精米機といって、非常に精度が高く作られた直径40cmもある金剛砂のロールを使った精米機が開発された。それでも十時間近くの時間をかけてゆっくり精白する。そうしないと摩擦熱によって米の中の水分が蒸発して米がくだけてしまう。

米が砕けてしまうと酒を造るには大変困る。精米した米は全部同じ形で同じ大きさに精白されていないと発酵がなめらかに行われない。

普通の米と酒造好適米の一番大きな違いは、好適米は米の中心部分が白くなっている種類が多い。この白い中心の部分は「心白」と呼ばれ、非常に柔らかい。そこがスムーズな発酵の助けとなる重要な部分となる。それだけに精米の時に心白が砕けないように大事に精白することは並大抵の事ではない。精米機を一端止めると、米の温度が下がってしまう。その時水分が急激に蒸発するため米が砕けてしまうことがある。

精白率が高い吟醸の米などを精米するときには何十時間もかかるため、交代で徹夜作業をすることすらあった。

しばらく前に、精米機を管理するコンピュータが開発された。精米工は今までの様に何十時間も連続して機械についている必要が無くなってきた。それは我々メーカーにとっても働く者にとっても大変有り難いことである。ただ有り難くないことは、未だ高価であることである。

 

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