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酒造雑話…ひやおろし

2000年10月


十月に入ると、いよいよ日本酒のシーズンである。というのは今までの話で、平均気温も高くなってきたせいもあるし、日本酒を呑む人数が減ってきたせいもあろうが、ここ数年見ていても、十月に入ると即日本酒のシーズンという感じではなくなってきているようだ。 とは言うものの、涼しくなってくるとビールから日本酒に戻ってくる人たちも増える。

そこで秋を感じさせる商品として最近増えてきているのが「ひやおろし」の酒である。

「ひやおろし」の正確な定義は知らないが、夏の暑い時期を蔵の中ですごし、ゆっくりと熟成した酒が秋口出荷される。ちょうど酒が旨くなってきた走りの酒のことであろう。一説によると、外気温と蔵(貯蔵庫)の中の温度が同じになった頃に出荷される酒が「ひやおろし」であるという。

では、外気温と蔵内の温度が同じになるのはいつ頃であろうか。当社の蔵の中の温度が一番高くなるのは、暑い盛りをちょっと過ぎた八月下旬頃で、大体二十二℃程度である。今年のように暑い日が続くともう少し高くなることもある。今年は二十三℃程度まで上がってしまった。

当社のあたりでは、九月に入ると、まだまだ暑いとは言いながらも涼しい日は午前中の気温が二十℃前半という日が出てくる。今年も九月に入って雨の降った日などは気温が低く、蔵の中の方が外より気温が高くなった日が出て来た。それまで締切りだった蔵の天窓、地窓を開け、外気を蔵の中に入れ始めたのである。当社にとっては九月上旬が今年の「ひやおろし」の季節の始まりであった。

ちょうど同じ頃、秋の日本酒シーズンに向けて、夏の間在庫量を制限していた各種の酒を詰めはじめた。種類が多いので順番に詰めていってもかなり日数がかかるのだが、この便りが皆様の手元に届く頃にはほとんどの商品が秋に入ってから新たに詰めたものになるはずである。

そういう点では十月になって手に入る当社の酒は全て「ひやおろし」の酒という事になる。特に意識してそうしたのではない。例年の如くの作業の進め方である。他社もほとんどが同じであろう。こういったあたりが、日本酒が日本の四季を感じさせてくれる、とても良いところではないかと思っている。

しかし、十月に入って手に入る酒は皆、蔵の中でじっくりと熟成した旨い酒ですよ、というのは簡単だが、消費者にとってはあいまいに聞こえる。そこで「ひやおろし」とわざわざ銘打った商品が増えてきている。

当社でも本年から特に「ひやおろし」とは言ってはいないが、秋になって旨く熟成した酒を「秋の旨酒 秋本番」という秋の季節商品として発売する事にした。皆様にもご案内が届いたはずである。ラベルにも書いてあるが、辛口なのに甘く感じる酒、旨味のある酒である。ぜひ呑んでみていただきたい。

これで冬の「しぼりたて生」、春の「春花見」、夏の「つゆ草」、秋の「秋本番」と、四種類の季節商品がでそろったことになる。夏の「つゆ草」は、おかげさまで好評をいただいており、定番商品になるかもしれなりので、来夏に別の商品を投入する可能性もあるが、いずれも、四季折々に合わせた味を作ってきたつもりである。これに冬のカメ酒、春の無濾過大吟醸などをプラスして、日本の季節の移り変わりに合わせた味を提供して行きたいと思っている。

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