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冷酒

1999年8月


夏の酒というと、近頃では麦酒が一般的になってしまったように見える。しかし、麦酒が夏の酒として広く広まったのは、ここ数十年のこと、長い歴史から見ればつい最近のことである。

私は夏のお酒としておいしいのは、はやり清酒であると思っている。明治の頃までは、俳句の歳時記の夏の項をみると、夏になって七月頃にお燗をしないで飲む清酒を「冷酒」と呼んでいた様である。「冷酒」と書いて「ひやざけ」「ひやしざけ」「れいしゅ」など種々に呼んでいた様である。

これは特別に「冷酒」という酒があった訳ではない。普通の酒を冷やして呑むのが季節感あふれる呑み方であったのであろう。しかし、冷やして呑むという事自体が昔は大変だったことを記憶している人も多いと思う。

冷やすと言えば、井戸水に浸けるのが一般的であった。井戸水は十℃〜十五℃なので、丁度呑みごろの温度であるが、水から出してしばらくおくとすぐに暖まってしまう。もう少し冷やしたいとなると、氷を使うしかない。

しかし、現在は夏の暑い季節になっても、どの家庭にも電気冷蔵庫があり、その中に製氷室があって、いつでも氷が簡単に作れるようになあっている。しかし数十年前までは、病人に使う氷を手に入れることも真夏では大変だったのである。

冷蔵庫が出来るまでは、真冬の氷を溶けないように貯蔵しておくしか方法がなかった。真冬に厳冬の池から切り出した氷を、おがくずや籾殻といった断熱材を詰めた土室(氷室…ひむろ)に保管し、そこから必要に応じた量を取り出して使っていたのである。

氷室の歴史は古く、平安貴族が、夏場に氷を浮かべた酒を飲んでいたという記述もある。江戸時代に、将軍が富士山の麓から氷を江戸まで運ばせていた、というのも有名な話である。

我が社でも、昭和になった頃からは、吟醸酒を貯蔵するために、氷を使って大切に冷蔵貯蔵していた。我が社の貯蔵庫は三十センチメートル以上の厚い土壁の土蔵であり、屋根にはその上に三十センチメートル以上の空間を置いてもう一つ屋根を葺くという丁寧さで造られているため、それだけでも冷蔵設備の要らない貯蔵庫である。しかし、吟醸酒を保存するにはそれだけでは足りず、氷を使用して低温貯蔵をして酒質の変化を極力減少させる様に務めていた様である。

そういった工夫の末、各種品評会の高位入賞を果たすことが出来たようである。杜氏の醸造技術のみならず、その様な製品の貯蔵に対するたゆまぬ努力の結果でもあろうと自負している次第である。

ここ十年来の吟醸酒ブームの結果、どこへ行っても大吟醸と銘打った酒が出ている。非常に数が多いため、良い酒も多い反面、大吟醸と名付けて良いものか、と思われるような大吟醸もかなりあるのではないかと思う。

我が社では自社の歴史を汚すことの無い吟醸酒を出荷していると自負している。どうか消費者にも自信を持って薦めていただきたい。

どうか酷暑に向かう折、どなたにも健康にご留意いただき、冷やした清酒を適度に味あわれて盛夏を過ごされることをお祈りする。

 

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