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日本酒と料理

1999年6月


始めてフランス料理のフルコースにぶつかった時、大変に緊張した覚えがある。それはナイフやフォークの使い方でもあったが、それよりまして、魚料理と肉料理とで使用するナイフとフォークが異なる点である。しかしそれは同席の人の真似をすればどうにかなるものであった。

だが、白ワインは魚料理の時で、赤ワインは肉料理だといわれると、何故その様に決まったのか、首を傾げざるを得なかった。

しかし、その様に食べれば料理もワインもおいしく食べたり飲んだりできた事で、なるほどと合点させられた。しかし、イギリス人の好むスコッチなどはどの様な料理に合うかよく分からない。これは食前酒という性格を持つからであろう。

ところが、日本酒はどんな料理にも合ってしまう。生臭く西洋人には親しまれない魚の刺身にも合うし、塩辛や「このわた」などの珍味にも合う。そればかりでなく、煮物、鍋物、焼き鳥から始まり、果ては焼いたオムスビにまで合ってしまう。

ある人の本に、「日本酒は極上の調味料だ」と書いてあったが、中華料理にもフランス料理にも合ってしまう。フランス料理のフルコースを大吟醸だけで通すこともできる。日本酒はフランス料理のソースの濃厚な味も、シャープな味も引き立ててくれる。そして次の一口を食べるときに、酒の味が邪魔をすることもない。あの独特な辛みのブルーチーズなどと一緒に食べても、口の中に柔らかい味が広がって舌を包んでくれる。チーズの塩分を軽くし、臭みまで落としてくれる。それ故日本酒ほど食中酒の王道を行く酒はないであろう。

しかし何にでも合うからといって、いつも同じ酒ではつまらない。その時の料理に合うものを選んで行くのも日本酒の一歩進んだ楽しみ方と言えるであろう。

味覚は個人のものであるから、人に勧められたものでなく自分で選んでいただくのが一番である。日本酒はワインなどと違ってどんな料理にも合うのであるから、多少の失敗は恐れずに、和風、洋風、中華風を問わずいろいろな料理に積極的にトライして楽しんでいただきたい。さらに、食前、食中、食後の区別も無いのであるから、TPOにて自在に選んでもらいたい。

日本酒と料理の合わせ方の方針は、以下のようなものでは無いかと私は思っている。料理の最初に出る向付の様に軽い品や白身のさしみなどには吟醸酒の様なものが合う。赤身の魚や肉、魚の「わた」などには濃い純米酒が合う。柔らかい料理には柔らかい酒が合うと思われる。

酒には吟醸酒、本醸造酒、純米酒等それぞれ特徴がある。そういったものを私達は醸造している。料理と日本酒は同じ香りや味の傾向が同じ資質のものどうしの組み合わせであれば間違いない。

これも日本酒の、よりおいしい呑み方である。その事を念頭に、いろいろとチャレンジしていただければ蔵元として、大変嬉しい思いである。

(以上社長。常務補足)

日本酒と料理の組み合わせは、社長が書きました様な同種のものどうしの他に、わざと異なる香りをぶつけてみるのも面白いです。例えば、匂いの強いオリーブオイルを使った料理に、まったく違う質の香りの大吟醸が合うこともあります。試してみてください。

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