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酒器

1998年9月


 

今までの御園竹便りの中で、酒の容器について何回かお話しした。今まで書いた内容のほとんどが酒の販売容器についてだったではなかろうか。今回はちょっと趣を変えて、酒を呑む容器について考えてみようと思う。

皆さんはお酒を飲むときに、どのような容器を使っておられるのだろうか。特別な容器は使わず、一升瓶を脇に置いてコップに注ぎながら呑むという人はそれほど多くないと思いたい。やはりいったん徳利などに移して、そこから杯に注ぎながら呑む、というのが一般的ではなかろうか。

もちろんこれは、酒を暖めて呑む、ということが前提になっている話である。少し前までは、酒は燗で呑むのが当たり前だったから、どの家にも酒を暖めて呑む為の道具があった。しかし、酒を冷やで呑むことも多くなってくると、家の中を探しても酒を冷やで呑む為の酒器がどこにも無い。となると、いきおいコップ酒になってしまうことになる。これでは味気ない。やはりそれなりの酒器を用意して呑んだ方がずっと酒が旨くなるのではないだろうか。冷やで呑む酒器に関しては書きたいことがいろいろとあるのだが、生酒の時期がすぎてしまったので、来年の生酒のシーズンが始まる前に書くことにしよう。

夏の間、冷やの酒をコップで呑んでいると、だんだん無精になってきて、燗酒が呑みたくなったときは酒を入れたコップをそのまま電子レンジで燗している人も多いのではないだろうか。最近は電子レンジの性能が良くなって、非常に良い燗がつく。しかし、できれば、コップ酒をレンジでチンするのは止めて欲しい。酒がかわいそうである。

酒の味の点から見ると、燗酒をコップに入れるとアルコール分や香りの成分がどんどん揮発していってしまうので、酒がまずくなる、ということがある。いわゆる燗冷ましの酒である。

私はそれ以上に、酒を呑む容器によって酒の味が変わる。そのことにもっと気を配って欲しいと思っている。良い酒器を使うことによって酒がずっとおいしく感じられるからである。酒の為に作られた焼き物の何と多いことか。色や形だけでなく、大きさ、重さ、肌触り等々。手にしっくりとくる徳利や杯を見つけた時の喜び。そんな酒器で酒を呑むと、味がまた格別である。

料理に合わせて使う皿を選ぶのと同じように、酒の種類やその日の気分によって、一番おいしく呑める酒器を選ぶ。極論ではあるが、それができることが「余裕のある生活」なのかもしれないと思っている。

その意味では、酒販店も酒を売るだけでなく、酒器を販売しても良いのではないだろうか。すなわち、酒を呑む生活スタイルを売るという発想である。酒器を売るということは極論かもしれないが、酒販店が酒の販売所ではなく、酒文化の発信基地とならない限りは、日本酒離れが加速する一方ではないかと思っている。この御園竹便りも、そのための情報源の一つとして始めたつもりである。ご利用いただければ幸いである。

今回は話が飛んでばかりで申し訳ないが、最後に酒器、特に杯に関して一言。杯を選ぶときには、唇に当てて選んだ方が良いと思う。唇の感触によって酒の味が全く違って感じられるからである。人によって好みが違うと思うが、私は、ぐい飲みのような厚手のものよりも、磁器製の薄手の杯が唇に馴染むと思っている。

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