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燗と冷や

1998年7月


日本酒を冷やして呑むとおいしい季節になってきた。しかし、少し前までは夏でも燗酒を呑んでいた人がほとんどだったのではないだろうか。

世界の酒の中で、日本酒が他の国の酒と際立って違うのは、お燗をするという事である。お燗をして飲むという習慣は今では至極普通の事である。それで、演劇や映画の中でも自然に「燗酒を持ってきてくれ」とか「熱燗にしてくれ」という言葉が出てくる。

しかし、江戸時代より以前の日本、濁酒(どぶろく)が普通に呑まれていた頃は、お燗をしない酒を呑むことが普通だったのである。お燗をつける酒器が高価だったせいもある。徳利なども、白磁器などはもちろんのこと、瀬戸物製の徳利などでもお湯につけて使うには高級すぎ、祝いの席などに使う大事な宝物であった。また、鉄製のお銚子なども高級品として扱われた。

それが、瀬戸物の普及などによる値段の低落化に伴い、お銚子を使用して暖めた酒が一般的に呑まれるようになった。高級な呑み方という形で広がっていったものと思える。

暖めても呑める酒は、良い酒でなければならない。酒の中の雑味を感じさせる様々な成分は、暖める程蒸発しやすい物だからである。逆に言えば、相当昔から日本酒がお燗をして呑まれていたということは、それだけ日本酒が高度に洗練された歴史を持っているという事である。

そういった背景があるからだろうか、少し前までは冷や酒を呑むことは悪い呑み方だとされていた。今でも冷や酒、コップ酒などというと嫌なイメージを連想する人も結構いるのではないだろうか。

しかし、近頃は夏に日本酒を冷やして呑むことが普通に思える時代となってきた。日本酒の種類も増えて、冷やして呑んで旨い酒が出てきたからであろう。冷やして呑まないと価値がない生酒はもちろんのこと、吟醸酒や純米酒なども冷やで呑むと旨い酒である。

ところが、逆に、どんな酒でも冷やして呑めば良い、というような風潮もあるような気がする。どんな酒も一様に冷やすだけで良いものだろうか。呑み方を工夫すると、もっとおいしく呑めるのではないだろうか。

例えば、生酒を呑むときは、視覚でも冷たさを感じられるように、ガラス製の徳利と杯を用意し、酒だけでなく徳利と杯も冷蔵庫で冷やすと、単に酒だけを冷やしたときよりずっとおいしく呑める。吟醸酒はあまり冷たいと香りが感じられないので冷蔵庫の野菜室で若干冷やす程度にし、氷を浮かべて呑むのも粋であろう。こんな、いろいろな呑み方を消費者に伝えることで、日本酒のファンが増えるのではないだろうか。

最後に、ちょっと変わった呑み方をご紹介しよう。コップにいっぱいに氷を入れ、「牧水きもと純米酒」を八分目まで注ぐ。ここにレモンの薄切り数枚のせる。これだけで見た目にも涼しい飲み物となる。お酒は室温の方が氷が溶けて飲みやすいであろう。氷が溶けてきたらお酒を足してやる。そうすると、あっという間に一合は呑めてしまう。お酒はやはり「きもと純米」がよい。いろいろ試したが、味のしっかりした酒でないと水っぽくなってしまう。

まだまだ工夫の余地があるが、結構評判は良いので、是非一度試していただきたい。感想や、改良案など教えていただければ幸いである。

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