御園竹便り御園竹便り目次へ  戻る 次の号へ 

page_040 


燗酒の季節に入って

1997年10月


燗酒がおいしい季節になってきた。まだちょっと早い気もするが今回のテーマは燗酒とすることにしよう。

酒を暖めて呑むという週間は、世界的に見ると珍しい飲酒習慣である。冷酒が親しまれるようになったこの頃でも、手をかけて燗をつけて酒を出すことの方がもてなしになると考える人が多い。寒い時期には燗酒がうれしいばかりでなく、日本酒独特の香りと味がより楽しめ、酔い方も早いからでもあろう。

では燗に適当な温度はどのくらいかというと、適切な答えがすぐには出ない。それは酒が嗜好品であり個人的な差があるからである。

昔から「燗は人肌」と言われている。人肌というのを、脇の下を体温計で計った温度と考えるのは間違いだ。脇の下の温度は三十六度〜三十七度であって低すぎる。少しエッチだが、婦人の胸元に手を入れて触れたときの暖かさが「人肌」の基準になるそうだ。

燗酒についても、口に含んでほのかに暖かさを感じられる三十九度前後が「人肌の燗」であるという人もいる。

しかし、ものの本によると、燗の温度は四十二度前後を温燗(ぬるかん)、四十五度前後を上燗(じょうかん)、五十度前後を熱燗(あつかん)と呼ぶのが一般的だそうである。

しかし、この燗酒というものは、麹を使った醸造酒のみに適していて、世界中でも日本酒と中国の黄酒(紹興酒)などだけに見られる慣習といわれる。欧米でも燗に近いものとして、赤ワインを鍋で暖め、ブランデーなどを入れ砂糖で甘くして呑んだりする呑み方もあるそうだ。ただし私は試したことが無いので、旨いかどうかは保証の限りではない。

燗酒が広く飲まれるようになったのは、どうも江戸末期の儒学者の貝原益軒が言い出したことに端を発するものらしい。彼は「養生訓」という、精神・肉体を健康に保つための生活上の心得を説いた本の中で、酒を冷やで呑むと胃や内臓に悪い。また、お燗酒は食欲を増進する役割がある、という理由を挙げている。

しかしそれは冷酒にとって気の毒な悪口である。冷酒は口当たりが良いので、とにかく量を過ごしやすいのである。昔は原料米の精白が低かったので、悪酔いの悪酔いの原因となるフーゼル油が多く含まれていた。しかし現在の日本酒は米の精白も高く、フーゼル油などほとんど含まれていないので、冷酒、即、悪酔いの原因とはならないというのが定説である。

近頃では日本酒でも燗に適さない日本酒が増えている。しぼりたて酒、吟醸酒、生酒などは燗をしない方が旨いし、燗をしたら独特の旨味が半減してしまう。逆に、人によっては純米酒を燗すると、独特の香りが更に強まっておいしいという人もいる。これも嗜好の相違であろう。

また燗酒の特有のムッとくる香りが嫌だという人もいる。実は当社では、このムッとくる香りがほとんど出ないお燗専用の酒を造った。十月の半ばには商品化できるので、その際には是非試していただきたい。

御園竹便り目次へ  戻る 次の号へ


著作・制作: 武重本家酒造株式会社
Copyright (c) 1994-2000 Takeshige Honke Shuzou Corp