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変わらぬ味

1996年9月


 

今年の夏は例年より短く、秋になるのが早いように感じられる。夏の間も、昼間は暑かったが、朝晩は涼しく、寝苦しい夜は一晩も無かった。当社の酒はどんな夏を過ごしたのだろうか。

熟成具合を見るための行事として「呑切」を行うということは、この便りの中で何回かお話しした。今年も七月後半に佐久酒造協会で佐久のメーカー合同で初呑切を行った。七月の前半まで気温が例年より低かったせいか、熟成が幾分遅く「若い」酒が多かったようであった。

今までの便りでは触れなかったが、当社では毎年、七月の初呑切の他に八月下旬にもう一回呑切りを行っている。これは、一番暑い時期を過ぎて、酒がどう変化しているのか、どの様な熟成度なのかを調べ、出荷に反映させるためである。今年も八月二十二日にこの呑切を行った。初呑切から約一月、夏を越した酒は、七月よりも熟成しており、若さが目立つ様なことは無かった。もちろん、熟成しすぎた酒も無かった。全体に程良く熟成が進んだようだ。夏があまり暑いと、酒が熟しすぎ、古酒の香りが早めに出てきてしまうことがあるが、今年の酒の様子では、これならば、今年の秋から暮れにかけて、良い酒を供給でき、また皆様に売っていただけることができることを、自信を持ってご報告できる。

呑切では、タンク一本一本の酒を丹念に調べる。出荷量の多い酒、御園竹などは、数十本のタンクに分けて貯蔵されている。仕込みも数十本に分けて仕込まれるので、当然タンク毎に味や熟成の度合いが異なる。しかし、呑切をしてみると、ほとんどのタンクの味が大体同じ味に保たれているのである。

「御園竹はいつ飲んでも同じ味だ」というお褒めの言葉をいただくことが良くある。それもその筈である。その年の仕込みが終わって、出来上がった酒を調合してタンクに貯蔵する、その時点でほとんどのタンクの酒の味が一定になっているのである。となれば、出荷の際には、どのタンクから瓶詰しても、味が一定になる。これは杜氏の技である。

もちろん瓶詰の際にも、幾つかのタンクに貯蔵されていた酒を調合して味の調整をすることはできる。当社でも調合することはある。しかし、ほとんどのタンクの酒の味が一定している方がずっと出荷は楽なのである。

杜氏の技術というと、すばらしい大吟醸を作って鑑評会で金賞をとることだけがクローズアップされているようだ。しかし、普通酒を造るとき、そして造った後も手を抜かない、この点でも杜氏の技を評価すべきであろうし、当社ではこういった杜氏の技を高く評価している。「消費者に愛される酒、本当の地酒」が当社の目標であり、杜氏もそれを十分承知して酒造りをしている。

なんとなく当社の自慢話になってしまったようだ。しかし、一定の味の良い酒を供給することが重要である、という当社の考えはご理解いただけたと思う。酒販店の皆様も、是非当社の酒の味には注意していて欲しい。もし、味が変わっていたら、また消費者の方から味がおかしい、という話があったら、直接でも、営業員を通じてでも、必ず会社に伝えて欲しい。言い難い話でも聞かせていただければ、感謝をもって自省し、悪い点は必ずなおしていくつもりである。

 

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